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覚えていなくても
事実を聞いたその次の日から、彼女を連れていろんなところに行った。もちろん彼女と楽しい思い出を作るというのもある。もうひとつ明確な理由があったからだ。記憶を取り戻すこと。記憶を思い出す方法としてとにかくいろんな場所に行くこと。それを思い出したのだ(記憶は曖昧だが、学生の時に読んだ本の中に書いてあった)。
今日は近くのスキー場で雪まつりが行われると聞いて来ていた。冬の夜は寒い。
「奏汰くんのジャンパー似合ってる。」
「確かにスキー場で貸している物の中ではいいデザインだと思うよ。」
自分のジャンパーを見ながら話す僕に彼女はそっぽを向く。
「ジャンパーを誉めた訳じゃないの。」
「わかってるよ。」
そういいながら僕は彼女の腰に手を回す。
「こういうこと、でいいのかな?」
外が寒いせいか声が震えて聞こえる。
「うん。とてもあったかい。」
雪まつり開催のアナウンスが流れ、僕たちは一旦離れる。
「莉央との思い出を僕はたくさん作りたいと思ってる。もしよければもう少しの間、付き合ってくれないか?」
「もちろん。私はまだまだ足りないと思ってるけどね。」
そう言って笑う彼女はいつもと少し違って見えた。人間も月と同じように見方次第で変わるのだろう。僕は彼女をどこから見ようと、何度記憶を失おうと何回でも何十回でも恋をする気がする。僕は彼女に笑い返し、手を取って走り出した。
「早く行かないと人で見れなくなっちゃうよ。」
僕の気持ちを知ってか、彼女は全く抵抗しなかった。
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