プロローグ

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南北が2つに分かれる前から竜族交配の研究が行われて、当時は北に収容されている水竜のみが繁殖可能な雌の個体だった。 水竜ベナトナシュは種族の異なる竜族との交配を強いられ、種の違う卵を3度産んだ。更には人間の女に竜の子どもを孕ませようという非人道的実験を繰り返し、はじめて出産に成功したのは南北が分裂する前年の話だ。 分裂当初は成体4体、交配して生まれた仔竜4体、計8体だったノーザンクロスの竜は、今も無理な交配を続け数を増やし続けているに違いない。しかし、ベナトナシュの繁殖能力は年々著しく衰え、竜と人との間に出来た混血は、純血に匹敵する能力は望めなかった。 「分裂する際、サザンクロスはアラサンドラ、レイ、シヴァナの3体を引き取った。シヴァナを選んだことに北は猛抗議をしてきたが、当時からシヴァナとレイは種族を越えた恋仲だったからな、国も2人の自然妊娠を望み、保護区への引き取りを認めた」 寄り添う男女は誰の目から見ても釣り合いがとれている。森の中のツリーハウスも、人目を避けた2人の愛の巣というわけだ。竜を相手にわずかな嫉妬心を抱いたことは否めないが、彼女にとって北に行かずに済んだことは大きな救いだったに違いない。 北で雌の竜が、交配に利用された人間の女がどれほどの苦痛を強いられているか……男のカイジでさえ胸糞が悪くなる悪行だ。 「南北を合わせても純血の雌というのは、シヴァナ、ベナトナシュの他に、ベナトナシュと火竜ベツヘレムとの間に出来たヘナの3体だった。しかし、ベツヘレムと北の火竜ゼロは兄弟だ。近い血筋で交配をくり返せば、異形が生まれるリスクが高まる」 「……しかし、南ではもう1体雌が見つかった」 「今でも国を通してシヴァナを譲るように北から要請が来ている。互いに干渉はしないとはいえ、北にとって繁殖は重要な問題だ。繁殖能力がある雌が2体もこちらにいると分かれば……強引な手を使ってきても不思議じゃない」
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