五章/王の住処

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女官服は3枚仕立てだ。白い綿の肌着、下半身には鉄紺の巻き布、上着には唐紅の袷襟。全体的にゆったりとしたシルエットで、足元も手先も隠れている。作業するときには袖に付いている紐を引けば、自在に袖口をしぼめることが出来た。 顔に白粉を塗り、唇には紅を。目尻には薄紅色を。装飾品は持っていないため、長い髪の毛は麻紐で1つにまとめ、生の花で即席の髪飾りを作った。 12年間、下ろし髪と萌黄色の前掛け姿が定着していた普段の姿と比べれば、想像もできない変貌を遂げたが、手を貸した後でもサラエムの不安は軽減されない。 マナが本物の女官ではないことが知られれば、除籍処分どころでは済まされない。ましてや王妃に毒を盛った犯人を探ろうなんて弁明は、聞き入れてもらえるとは思えない。不審な動きを怪しまれ、王族に危害を加える容疑がかけられようものなら、死罪は免れないだろう。 「……頼みますから、言葉遣いと所作だけは気を付けて下さい。深入りは禁物です、あくまでさりげなく。女官様になりきってください」 「私は女官、私は女官、私は女官」 「背筋を伸ばして、胸を張って、堂々とした態度を示して、いってらっしゃい」 「任せて!」 見えない力こぶをアピールするマナに、サラエムは頭を抱えた。見た目は大人、中身は子ども。 そんな女官は、いない。
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