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一般家庭でも台所は女の聖域と言われるだけある。居館の2階にある厨房には女官も下女もひしめき合い、総出で晩餐の準備を進めていた。
煮え立つ鍋。炊きあがる米。幼い少女達はひたすら野菜の皮を剥き、下女見習いは洗浄に専念。勤続年数の長い下女が味付けや加工を担当しているようで、厨房に立つ女官は味見と指示に徹している。
四季彩署とは比べものにならない忙しさだ。全体を見る女官の指示も小言も止まること無く、よくそんなに口が動くものだなと感心してしまうほどだ。
「ちょっと、皮を厚く剥きすぎよもったいないでしょう! これを担当したのは誰!? 初歩的なことなんだからもっと丁寧な仕事をしなさい!!」
「あの、失礼ですが」
「なによ、口を動かさないで手を動かし……え、誰よ、貴女。ここの担当者じゃないわよね」
厳しい口調に躊躇ったが、話しかけてみれば優しい目をしていたことに安堵した。年は30代だろうか。前髪もすべて後ろでまとめ、部外者の立ち入りに動揺を隠しきれていない。
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