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透明の容器に詰まっているのは花茶の茶葉だ。茶葉に混ざる白い花はダイダイの花。乾燥されてシワは寄っているが、お湯でほどけば香りが立つ。
花茶に限らず焙煎した香茶は国内では一般的な飲み物なので、四季彩署でも何種類もの花と組み合わせたオリジナル茶葉をキヌヅカが自作し、それを署員に振る舞ってくれる。
「今度は是非、ダイダイの実も漬けてみて下さい。はちみつも混ぜて。王女様にはそちらの方が飲みやすいかもしれません」
「あら、それも美味しそうね」
「お忙しい中、お邪魔しました。私はこれで失礼します」
厨房から離れてすぐにハルジオンが姿を現した。なりすましの評価は上々。一切、疑われていなかったと、出会ってから初めて褒められたように思う。
「……次は別館に行きたいんだけど……さすがに王妃様から直接話は窺えないかな」
(マナ)
噂をすれば──……
通路の奥から大股で向かってくるのは、正真正銘、セシル王女だ。
話には聞いていたが、左頬には大きな湿布を貼って腫れを隠している。不機嫌なのは明らか。恐縮する従者に一瞥も無く、厨房に入って行った。
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