五章/王の住処

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*** 塔は王城で唯一の5階建て。最上階は見張り台となっており、青銅製の鐘が吊されている。 穀物や酒などを貯蔵する用途の他に、地下には敵国捕虜や囚人を幽閉するための牢獄。昼でも外の光が差し込むことは無く、湿気が多くかび臭い。床は土が剥き出し、通気口からはネズミが自由に出入りしていた。 今回、王妃の服毒に関わったとされる女官達も、1つの牢獄の中に肌着1枚の姿で捕らわれ、装飾品も履き物もすべて取り上げられていた。今や王妃付き女官の面影はない。 「王子様、どうしてこのような場所に……」 「時間が無い、質問に答えて欲しい。母上が倒れたあの日、普段と違ったことはなかったか。口にした食事以外のことでも何でもいいんだ」 「私たちは決して王妃様に毒を盛るようなことはしていません、無実です!」 「それを証明するためにも思い出してくれ。真相が明らかになれば、必ずここから出し復職させると約束する。しかし、事件から時間も経過し、そなた達の処刑まで時間がない。何か思い出せることはないか」 女官達はそれぞれ視線を交わしたが、これまでの取り調べの中でも有力な証言は出ていない。不審者の目撃情報もなく、調理に使用した香辛料も普段使いしているものだけだ。
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