プロローグ

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 ──4年後…… 着任当初からカイジがまとめた風竜についてまとめたレポートは、今では120冊を越えていた。何を食べ、1日何をして過ごすか。しかし、“風竜は何者にも捕らえることは不可能”と言われるように、すべてはマナの気分次第で観察は滞りがちだ。 触れることが許されるのは10日に1回もなく、1日上空から下りてこない日もある。食べ物に関しては動物性の食料は一切口にしない。火竜は肉、土竜は虫と葉物、水竜は魚や貝と種族別に食の好みははっきりしているが、マナの場合は空気だ。 パクパクパクと、空気を食べて頬を膨らませる。空気と言っても好みの味があるらしく、森の澄んだ空気を好み、研究施設などの屋内で食事を摂ることはまずない。 空気の中に風竜を成長させる栄養が含まれているのか定かではないが、出会った当初は毛玉姿だったマナも竜の形が出てくるようになった。白に混ざる鈍色の毛は相変わらずだが、モコモコに絡み合っていた毛は直毛に変わりつつある。体型はまるで毛の生えたイルカだ。尾びれを自在に操って、より活発な動きを見せるようになってきた。 「やぁ、アラサンドラ。体調はどう? 少しでも腰の痛みは引いた?」 (……この痛みは死ぬまで治らんよ……じっとしているのが1番だ) 「それなのにマナが君をひっくり返そうと挑んでくるそうじゃないか。腰に負担がかかるようなら、僕からマナにきつく注意しておくけど」 (……なに、仔竜の風など刺激にもならん……やらせておけばいい……) アラサンドラは齢600才を越える老竜だ。見かけは小高い岩山。亀のような甲羅を背負い、地面にうつ伏せたきり動くこともなく、飲まず食わずで半年以上生きることが出来る。 現代に復活した最初の竜であり、その口から語られる古代の記憶は、人と竜が共存を目指す上で参考になる話を聞くことが出来る。ただし、1日の大半を寝て過ごすため、話を聞く機会は常に巡ってくるものでもないが。
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