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「セシル? 何をしてる」
「お兄様、ちょうど良かったです」
ウンマを訪ねて別館に向かう途中、危なげな歩き方をする妹の背中を見つけた。振り返った顔は痛々しく腫れ上がり、ふくよかな唇も切れてしまっている。
手に持っているのは、トレイの上に乗せた土鍋だ。まだ湯気が立ちのぼり、フタを開ければ不揃いな野菜が浮かぶ粥だった。やや水が多い。米のにおいがするばかりで、香辛料の香りは皆無。味付けはかなり薄味だろう。
「これは?」
「お母様に持っていくのです。私が1人で作ったので安全ですよ。他の者には一切、触れさせていません」
事件からこれまで以上に食が細くなった母を労る妹の優しさ。普段は世話役の手を煩わせるはねっ返りの性格だが、父に叩かれても折れない心を今は頼もしく思う。
「そうか、母上が喜ぶな。しかし、途中でひっくり返しては意味がない」
「そうなんです、重くて腕がプルプルしていました」
「私も別館に用があるのだ。ともに行こう」
通りがかった女官にトレイを渡し、妹の空いた手をつないで歩いた。
これ以上、幼い妹が傷つくことがないように。家族を危険にさらさないように……王族の威厳を示す存在になりたいと、強く、クラウンは強く願った。
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