五章/王の住処

16/18
前へ
/503ページ
次へ
以前、訪ねた時よりも頬が痩け、顔色は良いとは言えないが、兄妹の訪問を母は笑顔で迎え入れた。 母の顔を見た途端にセシルは飛び付き声を上げて泣いた。 父親を怒らせ、叩かれたこと。 母親以外の人間が、父の隣に座ることへの不満。 何故、母だけが居館ではなく別館で過ごさなければならないのか…… 母は娘の髪を撫でながら「……ごめんね」と謝る。王妃ではなく、母としての眼差しを向けて。 クラウンは2人の時間を邪魔することなく、バルコニーでウンマが粥をよそい終えるのを待った。猫足のティーテーブルには、ガラスの花器に控えめな花が挿さっている。昔から母親が好む青い小花だが、名前は知らない。煮出せば薄い青色の染色液が出来そうだ。 「お待たせいたしました、お話を窺います」 「忙しい時にすまない」 出仕は小さく首を振り穏やかに笑んだ。80を過ぎ、眉尻に刻まれたシワも深く、頭も白髪に染まっているが、姿勢の美しさや持ち合わせる気品は変わらず健在。老いや心労は決して顔に見せない。
/503ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加