六章/花

3/28
前へ
/503ページ
次へ
しかし、席を外す間もなく、お茶を淹れたウンマが戻ってきた。マナはその背後に控え、軽く頭を下げた姿勢で正面のクラウンと向き合う。 あからさまなため息を吐き、「どうかされましたか?」というウンマの問いには、「……余計な心配事は、心臓に悪いと思ってな」とごまかし、淹れ立ての花茶を手に取った。 「金徳菊を使った菊花茶でございます。心が落ち着きますよ」 「ありがとう、いただくとしよう」 湯気とともに鼻に届く花の芳香。素人が花茶は淹れると味には苦みやえぐみ、お茶には濁りが混ざることがあるのだが、さすがは元尚侍だっただけのことはある。ウンマが淹れた花茶には、茶カスはもちろん、一切の濁りもない。煮出した時の色は、金色がかった緑だ。 菊花の中でも金徳菊は濃厚な蜜の香りと、口に含んだ時の香ばしさが特長であり、 「……え」 そこに木香が混ざるはずなどありえない。
/503ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加