六章/花

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──ガシャンッ!! 「「!?」」 「う、あっち!?」 「な……何をしているの!?」 声よりも先に体が動いていた。グラスに口をつけたクラウンの手を叩き落とし、床に広がる花茶の香りは一瞬、最も強く香りを発する。芳醇な甘い香りにかすかに混ざる……雨に濡れた木の香り。 菊花どころではない。花茶に使われるはずのない花が、既にマナの頭に中には浮かんでいる。 ウンマが扱った茶器の中にはまだお茶の残りが入っていたが、それも構わず床に捨てた。また一瞬だけ、匂いが強まる。 女官の奇行に王妃と王女は身を寄せて警戒の目を向けた。手に熱いお茶を浴びたクラウンは手を冷やしながら、信じられないという眼差しをマナに向ける。女官のあるまじき失態に顔を青くした後、激昂したのはウンマだ。 「とんでもないことをしでかしましたね!? 一体、どういうつもりですか!」 80を超えたとは思えない声を張り上げるが、マナは動じるどころか耳にも入っていない様子で缶の中から金徳菊の茶葉を取り出した。フタを開けた時の香りは金徳菊そのもの。乾燥しているため花本来の形が分かりにくい。手の平に何輪か乗せると、水差しから水を注ぎ、花開くのを待った。
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