プロローグ

13/20

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/503ページ
観察官総員でアラサンドラの甲羅を磨くことは、月に1度の習慣だった。放っておけば甲羅に土が被さり、植物が生える。根を張った植物の除去は、甲羅を磨くことより重労働なのだ。 最後に水で汚れを流せば、甲羅の麻の葉模様が浮き出た。長い年月生きてきた甲羅は、ある場所は欠け、ある場所は禿げ、ある場所には大きな亀裂が入っているが、重厚のある艶肌は土竜そのものの生命力を感じられる。 「どうだ、アラサンドラ。さっぱりしただろう」 「お前さんは体が大きいから洗うのも一苦労だな」 「マナがアラサンドラの体長を越すのもいつの話になるんだか。その時は間違いなく俺達は生きていないだろうが、どでかく成長した姿を見てみたいものだ」 「ハハ、違いない」 人間の会話に入ることなく、老竜は静かに目を閉じた。そもそも起きていることが珍しく、言葉を交わすことは非常に稀だ。久しぶりに起きて疲れただろう老竜を労ると、観察官たちはそれぞれの持ち場に離れていった。 (……カイジ) 「あれ、アラサンドラ。眠ったんじゃなかったのかい?」 老竜は目を閉ざしたままだ。 (……仔竜たちは、人型になれるようになったか) 「アルトはもう完璧だよ。肌の色も健康的な人間と変わりないし、将来、レイにも劣らないいい男に育つんじゃないかな。マナの方は本人がイマイチ人型になるつもりかないというか……まぁ、まだようやく角が生えてきたような子どもだからね」 (……) 「アラサンドラ?」 薄く開いた目は、カイジに向けられていない。灰色にくすんだ瞳の色が映すのは、少し先の未来、とも言われている。 (……風竜から翼と角を切り落とせ) 「え?」 (……竜としては致命的ではあるが、この先、風竜の子どもが生き残る術でもある) 「……どういうこと? どうしてそんな残酷なことを僕に言うんだ。そんなこと出来るわけが……」 (……極限状態の中でその選択肢が出来るのは、サザンクロスの中でもお前さんだけだ) 「……アラサンドラ……君は一体、何を……」
/503ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加