六章/花

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ノア王国よりも南に位置するクリニア皇国の中でも、コロリウシが自生していたのは南地方のサザンクロスだ。保護区の中でも見つかるそれは魅力的な甘い匂いを発しているが、『決して口にしてはいけない』と注意されただけでなく、観察官の手によって根から焼却処理されていた。口にした場合に出る症状は、すべてカイジから聞かされたものだ。 生活圏の中にあってはならないもの──……まさかそれを王城内で発見することになるとは思わなかった。 床に座り込んでしまったウンマの腕を引き、椅子まで移動させる。たった数分の間に、年相応の老女へと変わってしまった。マナの言葉を聞いても尚、間接的に服毒へ関わってしまったことで涙が止まることはない。王女が母親のもとから初めて離れ、老婆の手を握りしめた。 「この国で存在しないというのは?」 「クリニア皇国の一部の地域にしか存在しない花だからです。発芽条件が難しく、まず群生することはありません。わざわざ茶葉に利用する量を集める、ということ自体、不自然です」 「金徳菊に酷似しているコロリウシを知る者が、故意に茶葉を製造し母上に贈ったということか」 「おそらくは」
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