六章/花

10/28
前へ
/503ページ
次へ
今は片頬が腫れてしまっているが、将来が楽しみ美少女だ。よくもこんなに可愛い娘の顔を父親は叩けたものだと、他人事ながら胸が痛い。 「命令よ」 「はい?」 「お兄様を守ってあげて」 「……」 「この城にお兄様の敵もいないけれど、味方もいないの……本当に信頼している臣下は、セトくらいだと思う」 幼い頃から護衛も連れずに単独行動していたクラウン。確かに王子付きの臣下らしい臣下はセトが初めてだ。 クラウンが無能というわけではない。人望がないわけでもない。現国王、カフ・アル・カディブが50才とまだ若く、この先も在位が続くことを考えると若い王子の存在は軽視された。また、世辞や献上品が通じないクラウンは、高官にとって扱いづらい存在なのだろう。 しかし、一介の女官……本来は下女であるが、王女直々に“守ってほしい”と頼られるのは重責だ。 「……心の支えになれるように……頑張ります」 「……心の支え……」 あからさまな落胆、そして不満げな顔。 「女官なら身をていして王族を守りなさい」と、王女は将来、なかなかの辣腕を振るいそうだ。性格はどうやら、父親に似ている。
/503ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加