六章/花

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普段、感情を表に出すことが無い王子の目には珍しく怒りが含んでいる。茶缶を机に叩きつけ、その手で大官の胸倉を掴んだ。 幼い頃から知っている王子の身長は、今や大官を大きく超えている──…… 「知っていることをすべて話せ。これは父が母上に贈ったものなのか。それともお前個人が王妃に贈ったものなのか」 「わた……私は陛下から王妃へと、預かったものを届けただけです! その際に中身は【金徳菊】と聞きました……っ……菊花茶は精神安定の効能があるので、伏せがちな王妃様を気遣って贈ったものと……」 「その言葉に嘘はないか? もし母上に危害を加える者がいたならば、私はその者を決して許さぬ!! それがたとえ父だとしてもだ!!」 「そんな……ッ……陛下を疑いますな!!」 母が伏せてから長い年月、別館に見舞いにも訪れたこともない者が、気遣いに“毒入りの茶葉”とは笑わせてくれる。たとえ故意でなかったとしても、父の手によって母の命が危ぶまれたのは確かだ。
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