六章/花

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疲れた心を癒やす意味も込めて、マナは庭園を歩いてみた。中央の噴水から放射状にエリアが分かれ、その区分は色では無く、香りだ。 甘い香り、スパイシーな香り、爽やかな香り、優雅な香り……虫によって好む花の香りも違う。 マナは仕事柄、青臭い匂いも嫌いではないが、別館のバルコニーに飾られていた青い小花からは優しい香りが漂っていた。そういえば、見たことがない花だった。 「……同じ花、あるかな」 庭園を1周してから、ふと思う。 更に1周、2周と回ってみるが、ない。同じ花がない。王城で飾られている花は庭園で育てているものではないのだろうか。 「ねぇ、ハルジオン? 王妃様の部屋にあった青い花覚えてる?」 (……いいえ? マナを見つけたと思ったら、すぐにクラウン様を追うように指示されましたから花を見る余裕なんてありませんでした) 「……そうだったねぇ」 更にもう1周するが、やはり無い。 区分けされそうな甘い香りの花壇前で仁王立ちしていると、声をかけてきたのは庭園管理の下男だ。
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