六章/花

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下男と言っても年齢は70を過ぎている。腰が曲がっている分、背が低いのかと思ったが、そもそも背が低いようだ。向き合うと9才のサラエムと大して変わらない。 日焼けした肌と土で汚れた指先は、市民階級に違いはあってもキヌヅカと通じるものがある。 「……あの、何か気になる点でもございましたでしょうか」 「ただ息抜きしているだけなのでお気になさらないで下さい。こんなに素敵な庭園なら、近くで香りも楽しみたいじゃないですか」 「……息抜き、ですか」 「あ、そうだ、あの、1つお尋ねしたいんですが」 「……はぁ」 「王妃様のお部屋に青い花が飾られていたんですが、名前をご存じですか? 小さいお花で……えーっと……花自体は飾り気ないんですが、洗練された優美な香りが、ふわっと……」 あくまでマナが記憶しているイメージを伝えているだけなので具体性には欠けるが、老爺はすぐに見当がついたようで顔を綻ばせた。 「王妃様の部屋に飾られていた青い花なら、【プレセペ・マム】ですね」 「……プレセペ……初めて聞きましたが、稀少な花なんでしょうか?」 「若い方はご存じないかも知れませんね。今から約30年前になりますか。プレセペ・マムは陛下から王妃様に贈られた特別な花なんです」 「え」 「決して華やかなものではありませんが、とても生命力が強く、茎を手折ってもしばらく枯れることはありません。そして、プレセペ・マムは王妃様のお名前から名付けられ、王妃様のみ飾ることが許された花なので、女官様がご存じなくても仕方がないことだと思います」
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