六章/花

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クラウンの自室は王族が私的に使用する別棟の3階にあった。ただでさえ無駄に広い王城の中で、何故、庭園を眺めることもできない場所へ居を構えるのか。 いくつもの階段を上り下り、前を向かずに歩く文官を突き飛ばして道を開けた。「走るな!」「前を向いて歩け!」そんな叱責を浴びせられたが、ぶつかったくらいなんだ、こっちは命が懸かっているんだ。相手にしている時間も無い。 クラウンがセトを伴い自室を出たとハルジオンから聞き、向かう先の見当はついている。どうにかして親子の衝突を回避しなければならないと、なりふり構わず城内を走り、落ちた花の髪飾りにも気付かなかった。 やけに段差の低い階段が気持ちを急かせる。上る時は3段跳ばし、下りる時は最上段から飛び降りて、走る時には邪魔な裾をたくし上げた。 「……ッ……飛べればどんなに楽か……」 本当に人の体というのは、重くて鈍い。
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