六章/花

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額はクラウンの歯が当たった傷だった。背中は自分で見えないが、青あざくらいは出来ているのではないかと思う。 クラウンは流血こそしなかったが、頭突きが直撃したアゴが内出血を示す紫色に変色した。あまりの衝撃にアゴの骨格がずれたのではないかとさえ思う。 「大体、自分の職場に戻れと言っただろう。まだ城内をうろついて「ちょっと連れて行きたい場所があるので付き合ってください」 「……私はこれから行かなければならないところがある。話ならあとにし「大丈夫、目的地は“ほぼ”一緒です」 「ちょ、待っ──!?」 今度はクラウンの手を引いて、最上段から階段を飛び降りた。足の痺れも引かない内に連れ去られる王子の後をセトが追う。 すれ違う女官や文官から浴びせられる非難の声は、単独で走っていた時の比ではない。 「王子様の前を立つとは無礼な!」 「お手に触れるとは何事か!」 「止まりなさい! 止まれ! こら、走るな!!」 声はかけるが、マナの足に追いつける者はなし。注意は耳にも届かなかった。 前にもこんなことがあったな……と、クラウンの手を引きながらそんなことを考えていたが、当時はマナが手を引かれる方だったことを思い出した。そう、あれは初めてノア王国で目覚めた日。クラウンと出会った日。竜のタイル絵を見た、最初で最後の日──……
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