六章/花

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塔の5階からは王城全体を見下ろせることが出来た。老爺が働く庭園も、山のような資料を運ぶ女官の姿も、何やら言い争う文官の集も。中には男女の逢い引きもあれば、一方的に下女に言い寄る文官など……城内で暮らす者の人間模様は様々だ。 改めて城内で働く人間の多さと、彼等の仕事ぶりを目で見て、クラウンもようやく落ち着きを取り戻した。 遠くにはマナが勤める四季彩署、跳ね橋の向こう側に広がる城下の町並み……地下牢に続き、塔に登ったのも何年ぶりだろうか。こんなに見晴らしが良いものだっただろうか。 強い風に乱される髪を押さえながら、クラウンは四方を一望した。 「えっと、えっと、えーっと……っ!? あった! 見つけた! ほら、見て、クラウン様!!」 「……何をそんなに興奮して……」 居館3階王の寝室。開け放たれた窓から、小さい何かが飛ばされてゆく。それは風に舞い上げられ、塔まで届いた。身を乗り出して掴んだマナの手の中には、2枚の青い花弁。ふわりと香る優しい匂いは…… 「プレセペ・マムって言うそうですよ」 「プレセペ……」 「陛下が王妃様のためにお育てになっている花だそうです」
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