七章/狼煙

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体が熱い。体の節々が痛い。特に頭は内側から叩かれるような痛みで、拳固で両コメカミを押さえつけた。 工房の一室で1人になると、誰かにそばにいて欲しいような、いたらいたで鬱陶しく思うような複雑な寂しさだ。そして、暇だ。体を起こすことも出来ないんだから、暇を持てあますしかないが、「暑い」「痛い」「暇だ」以外に考えてしまうのは、普段は思い出すこともないような過去。 サザンクロスにいた頃に、火竜レイとどちらが速く、高く飛べるかを競った。横移動なら誰にも速さで負けないが、垂直移動になるとレイだけには敵わなかった。 毛玉姿の自分を抱えて地上に下りるレイ。「どっちがかったの?」と、駆け寄ってくるアルト。勝敗を察してレイからマナを受け取るシヴァナは、優しい手で毛並みを撫でた。 『今だけよ。風竜は誰にも捕らわれない、この世界で最も自由な生き物なんだから……』 『マナ、またやろう。お前が勝つまで、いくらでも相手になってやる』 尊敬する父と、優しい母。どうしてこんなに辛い今、2人はそばにいてくれないのだろう。 「……アルト」 そして、サザンクロスで最もどんくさかった兄は、今も無事でいるのだろうか……
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