プロローグ

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カイジたち保護区の観察官は、政府に呼ばれサザンクロスを空ける日が増え始めた。誰が呼び出し、何の話をしているのか。外の世界を知らない竜たちは知るよしもない。 ただし政府の中枢から戻ってきたカイジ達は、必ず嗅ぎ慣れない竜の臭いを染みつかせ、近付くだけでも不快な気持ちにさせた。血の臭い、腐敗臭、鉄の臭いに涙の臭い。監視区の竜はどのような扱いを受けているのか……頭は想像を拒む。 「国から正式に監視区域、保護区域廃止の命令が下された。今後、サザンクロスの竜は、ノーザンクロス竜監視区改めて……国立竜研究所の方に移されることになった」 観察官、そしてレイとシヴァナの前でサザンクロス保護区所長の口からそう報告されたのは、落葉が地面に踊る晩秋の頃。 集められた者は皆、緊張を顔に貼り付けると同時に、どこか覚悟していたように黙って俯いた。 「ノーザンクロスの繁殖がうまくいっていないだけが理由ではない。他国侵攻に備え、都市部に戦力を集中させたいという国の意向だ。残念ではあるが……今後、サザンクロス保護区域の維持は難しくなった」 「戦力って……レイたちを戦争に利用する気ですか? そもそも我々は、竜を人間の都合に利用することは反対する立場で!!」 「治安が悪ければそうも言っていられない。もし、他国に攻め入られ、竜を奪われることになったらどうなる? 保護区は監視区よりも警備が薄い。すぐにでも北へ移送して欲しいとの王命だ」 「……移送して……その後は?」 「竜に人を襲わせるなんて事は許しません! ましてや、監視区の竜のような、あんな──……ッ……」 「あのような扱いは外道がすることだ。竜を鎖で繋いでいたぶるような真似、それだけは絶対に許さない」 「……所長」 「皆の意見を聞きたい。そのために皆には集まってもらったんだ」
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