七章/狼煙

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崩れた塔の下敷きになり、居館の3階部分は完全に崩落した。露出した天井から見えるのは、空を覆い隠す灰色の翼。見えるはずのない、いるはずのないものが、剥き出しになった城内を見下し、ニヤリと笑う。 大きく開かれた口腔から吐き出される炎が居館を内側から燃やした。炎は絨毯に燃え移り、壁を伝って外気に燃え上がっていく。 炎から逃れた者は下へと逃げる。火に囲まれ逃げ場を失った者、火に包まれた者、瓦礫に挟まり身動きがとれない者は取り残されるしかなく、救助できる余裕は誰にもなかった。狭まった視界にすら入らなかった。 甚大な被害を受けた現場へいち早く駆けつけたのは、厩舎から放たれた騎虎だ。その背に主の姿はなく、騎虎としての本能で灰色の竜に襲いかかる。個体で見れば体格差は歴然だが、それを承知しているからこそ騎虎は群れで襲いかかった。翼に爪を立て、脚に噛み付き、咆哮をあげながら突進する。それを援護するように城壁から弓が放たれ、それを構えるのは文官だった。 「目を狙え! 矢では竜の皮膚は貫けない!!」 「大砲の準備を! 急げ!!」
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