八章/古傷

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幼い頃、憧れを抱いた他国の竜。わけあって1度は地上から消えた存在が、長い眠りを経て、自分が生きる時代に蘇ってくれたことに喜びを感じた。 いつか実物を会えることが出来たら その背に乗って空を自由に飛ぶことが出来たら 竜の咆哮を生で聞けることが出来たらどれほど胸が躍るだろうと、願った少年時代の夢は今、失望へと変わっている。 城内から初めて見上げる灰色の竜は、燃え上がる居館を見て嬉々としていた。まるで虫を踏んづけて喜ぶ子どもだ。弱者をいじめて優越感に浸る小物のようだ。雄々しく勇猛な姿はしょせん理想でしかなかったのか。結局は恐ろしいバケモノなのか…… 既に何体もの騎虎が払い飛ばされ、居館の炎は別棟にも燃え移った。生まれ育った城に愛着を感じたことはなかったが、こうも簡単に壊されるものとは思わなかった。 「母上とセシルの無事を確認したら、私も討伐に出る。父上の居所はまだ掴んでいないが……あの人も、そう簡単にやられる人ではないだろう」 「セシルさまも別館にいるはずです。避難は始めていると思うので、1度外へ出てからそちらへ向かいましょう」 「あぁ」 セトが周囲に気を配りながら、クラウンを避難誘導する。別棟の3階から下に下りるにつれて混乱は増し、普段見られない人数の軍人が城内へ入り、戦えない者達の避難補助にあたっていた。彼等も当然武装しているが、あくまで対人用、自己防衛のためだ。
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