八章/古傷

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緊急時の場合、城内の者は裏山に逃げることになっている。高度も傾斜も楽ではない山だが、山を越えれば隣町にも通じる街道に出ることも出来る。 ただし、竜が山に火を放てば、火は木に燃え移り広く延焼するおそれがある。火竜がそれに気付く前に、せめて翼を折らなければ…… 「クラウン……!」 「母上、セシル!」 屋外へ出て出会い頭に母と妹の無事を確認した。王妃付きの女官たちが2人を囲い、最年長のウンマが先頭に立つ。互いに埃を被っているが、傷らしいものは見当たらない。ただし、王妃の顔色は青白く、呼吸も浅く苦しげだ。 「2人は一刻も早くこの場から逃げて下さい。四季彩署で身を休め、安全が確保されるまで外に出ないように。セト、2人を頼めるか」 「はい」 「いいえ、クラウン。私たちにこれ以上の人手は不要です。それよりも陛下を……陛下が無茶をなさらないように、貴方が抑止力になってください。今回ばかりはあの人の、竜をも恐れぬ剛胆な性格が不安なのです……ッ……」 「……お母様」 「決して無茶はしないで……ッ……セト、陛下と王子を頼みます」
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