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何人にも止められた。向こうは危ない、近付いてはいけない、同じ道を辿ったサラエムも同じ言葉をかけられたはずなのに、良心に背を向けて行ってしまったのだろう。自分と、同じように。
痛む頭は、サザンクロスが襲撃された日のことを鮮明に思い出していた。レイが敵わなかった黒い火竜。他に2体の竜が故郷を襲撃した。
あの場にいた竜が来ているのだろうか。
レイが敵わなかった相手に、人間は、騎虎は、数で勝ることが出来るのか。
サラエム……アルト……どうして手の届かないところへ行こうとするの──……
「……勝手して死ぬなんて……ッ……許さないんだから……」
必ずこの手で連れ戻す。
自分より幼い子の命が守れるなら、この身はどうなっても構わない。
マナは側頭部に爪を立てた。塞がった古傷を剥ぎ取れば、過去から現在の光景がしっかり瞳に映し出される。
サザンクロスを襲った黒竜じゃない。
いるのは、まだ若い灰色の竜だ。
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