八章/古傷

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母親の手から乳児を預かり、瓦礫を登って軍人に手渡す。それから幼児。まだ幼い子ども達さえ、今、何が起きているのか十分に理解できる年齢だ。頭上には恐ろしい存在。一時とはいえ禍乱の中で親から引き裂かれる不安。親に託された時の抵抗は、乳児の非ではない。 「ユーリ」 「……母さんと手を放さないって、父さんと約束したんだ……ッ……僕はいい……僕は母さんから絶対に離れない……」 「私たちは最後でいいですから、他の方を先にお願いします」 「でも」 「大丈夫、この子には私がついていますから。それよりもマナさんも、決して無茶はしないで」 背中に浴びる火の粉を気遣うように、ナツメの妻・ロワナは力強い目で訴えた。おそらく気の強さはケリーに劣らない。それどころか勝っている。騎虎隊員を支える女性というのは、本当にたくましい人達だ──…… 背中に感じる痛みは顔に出さないように努めて、マナは母親達の救助に移った。抱き上げることは出来ないため、1人1人手を取って安定した足場へ誘導する。 いかに緊張していたか、手の冷たさで感じ取れる。泣きたいのは子ども達だけじゃない、それを表に出さないように拳を震わせて必死に恐怖から耐えていた。 残るは、あと2人──……
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