プロローグ

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「保護区の竜を人間の社会に放つ」 サザンクロス保護区の関係者がそれを決断して間もなく、荷造りの準備が始まる前に、見たことも無い3体の竜が保護区域に降り立った。 同じ竜族とは思えない狂気を爆ぜ、血走った眼が標的をとらえると容赦なく業火で焼き払った。畑も、施設も、森の中のツリーハウスも……今まで育ってきた環境が、一瞬にして破壊される光景を仔竜2体はカイジの腕の中で目撃した。 あの黒い火竜は何者なのか。視界に入れるだけでも身震いがする恐ろしい存在だ。近付いてはいけない、歯向かってはいけないと本能が警告しているにも関わらず、レイが止めに向かってしまった。 「レイ! だめだよ、逃げて!」 「レイ、にげてー!」 「……ッ……」 仔竜の口をカイジが覆う。興奮状態のアルトの口からは無意識に炎が吐かれ、肩と首を焦がした。それでも口を塞ぎ、視界を塞ぎ、繰り返し言い聞かせた。 「………逃げるんだ、2人とも……ッ……絶対に捕まっちゃいけない……」 「……どうしてぇ……」 「……なんでぇっ……」 「……君たちが竜である以上、この世界はとても生きづらい場所なんだ」 「レイは!? レイがやられちゃうよ!」 「シヴァナはー? アラサンドラはー? みんなー! みんなー!」 「……皆、お前達を逃がすために戦ってくれてる」 白い小包を抱えた観察官が1人逃げては炎に焼かれ、また1人、囮が命を落としていく。馴染みの人間が形を残したまま炭となり、レイに続きシヴァナまでもが敵と対峙した。人前では滅多に見せることのない氷竜の姿。母親代わりに育ててくれたシヴァナが、恐ろしい眼をして泣いている。氷結することなく、滴り落ち続ける…… どうして…… 何故、こんなことに……
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