八章/古傷

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長い体を捩らせるだけで、地上に強風が吹き込んだ。軽い火の粉は吹き飛ばされ、王城から上がる火柱は蝋燭の炎のようにぐらりと揺れる。 あれは何なのか……都にいる人間の目にも並々ならぬ大きさの竜は目に入ったが、見入る間もなく今度は砂嵐が襲いかかってきた。風に舞い上がる砂塵。軋む家屋に、傾く街路樹。風竜が自らの意志で上空に弾け飛ばされた火竜に向かっていくと、強風は暴風に変わり、人は立っていることも難しくなる。 再度、衝突された火竜が紙くずのように落下する光景を目撃した人間は数少ない。ひしゃげた翼では受けきれない風圧が上腕骨を折り、初めて火竜があげた叫声も風の音でかき消された。 追い打ちをかけるように風竜は火竜を地面に叩きつける。城壁の外で地面が爆発。噴出した土砂が頭から降り注ぎ、それは都で暴れていた青褐色の竜にも届いた。 「ゼロ・ワン!!」 「「「「「!?」」」」」 異形の姿は人型へ変わり、人間離れした身体能力で都の外へと向かった。その姿は、呆気にとられるほど人間に近い。そして若い。見た目だけ見れば、町で暮らしていても何の不思議もない20代半ばの若者だ。 「逃がすか!!」 「よせ、追うな!!」 「!?」 「……あのバカでかい竜を刺激するのはまずい。この町が簡単に吹き飛ばされるぞ」 「……ッ……」 「今のうちに怪我人を安全な場所へ避難させろ! 重度の火傷を負った怪我人を優先してすぐに医者のもとへ運ぶんだ!!」
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