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今すぐそれが敵わないのは歯がゆいけれど、風竜の力を取り戻した今、クリニア政府に捕まる気はしない。昔から言われ続けている言葉だ、“風竜は、何者にも捕らえることは出来ない”と──……
「女に組み敷かれて、なんて無様な格好をさらしてるんだい。ゼロ・ワン」
「お前も地面に叩きつけられて見やがれ。視界、ぐるぐるだぜ、くそったれ」
「……」
火竜と同じ目をした、青褐色の髪色を持つ青年は『ゼロ・ツー』と呼ばれた。
同じ目をしているのに纏う空気は『ゼロ・ワン』とは正反対だ。少しでも視界から情報を得ようと視線はマナのつま先から足の天辺まで向けられた。
青年期に入ったばかりの雌の竜。自身の口から出たように、稀少な風竜の純血種であることは間違いない。
氷竜のシヴァナや水竜のベナトナシュも美しい容姿をしているが、彼女たちの比べたら色気はない分、瑞々しい若さがある。
火竜と風竜の相性は悪くないはずだ。交配すれば火竜同士の子どもにも勝る、火力の強い子孫が望める──……と、クリニアの研究者なら言うだろう。
「……ゼロ・ワンにゼロ・ツー? 変な名前」
「……気に入ってねぇよ」
「自分でもそう思うよ」
しかし、まったく欲情しない。奔放な発言は先天性のものなのか後天性のものなのか。
町から飛んできた白布を掴み、全裸で兄を組み敷く少女の背中にかぶせた。白い背中には火の粉を浴びた無数の火傷が残っていたが、罪悪感を覚えるほど大した傷ではない。
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