九章/竜の子

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竜の襲撃による被害は甚大だ。夜を迎えても王城や都に放たれた火は燻り続け、夜通し消火活動が続けられた。 一時避難していた人間も町に戻り次第、救出活動に加わった。怪我を負った者でも動ける者は、より重傷者のために働いた。医者は裂傷を縫い、熱傷を負った者には熱冷ましの軟膏を塗りつける。それも足りなくなると薬草を擦って患部に貼り付ける。薬草自体が少なくなると、動ける者が山に入って摘んでくるように指示が出された。 今回は火竜が2体だったため、熱傷を負った被害者の数が尋常では無い。赤くなり痛む、水疱が出来る程度であればまだ症状は軽い。重傷になると神経の感覚を失い、体の深層部で熱が細胞組織を蝕んでいく。たとえ命を取り留めても、火傷の痕は生涯消えることはない。 最前線で戦っていた騎虎も多く失い、無傷で済んだモノはいない。人間と同じように火傷を負い、竜の鋭い爪を擦っただけでも重傷だ。騎虎の手当は騎虎隊員が自らあたったが、その騎虎隊員も多くの犠牲を出してしまった。 初めて対峙した竜の強さも大きさも、無知な想像を遙かに凌駕していた。存在そのものが人とも、騎虎とも大きく異なった。自然を操る神獣に、人間が敵うわけない──……と思う一方では、竜から人間を護ったのも竜だったという事実。 それも本当に身近に、存在していた。
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