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「いやだっ、僕も戦う!!」
「アルト!?」
「アルトー!!」
「ッ!?」
小さな火竜を追おうとした小さな風竜。1度逃せば、この混乱の中で捕まえることは困難だ。もしも、風竜の雌がサザンクロスに存在することが知られれば──……その危険性は、何度も頭の中で警鐘を鳴らした。
この状況下で逃す術があるのだとしたら……
脳裏に浮かんだのは、老竜の助言。
咄嗟にマナの口に布を詰めた。小さな体を足で地面に押さえつけ、白い毛に覆われた小さな翼を、そして生えたばかりの角を削ぎ落とした。想像以上の柔らかさが、刃を通して手に伝わる。
声にならない悲鳴を上げ、マナは意識を手放した。
全身を覆う白い毛に赤い血がベッタリと染みつき、背中にはカイジが足蹴にした靴跡が残る。本当の娘のように大切に育ててきた存在だ。これ以上ない愛しい存在に、なんて残酷な仕打ちをしてしまったのか……
しかし、いくら憎まれても……これまで積み上げてきた信頼が崩れ、殺したいほど憎まれたとしても……
「……どうか、生きてくれ……」
血にまみれた少女の体を抱き上げた。
今は目を瞑っているが、目を覚ましたら愛嬌のある紺青色の目をしているに違いない。白に混ざる鈍色の毛は、少女の自慢になるだろう。四肢は細く頼りないが、これからいくらでも成長できる。この先も痕に残る傷口だって……必ず誰かが愛してくれる。
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