九章/竜の子

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正体が竜と分かれば、角がなくてもそう見えなくもない。竜族の人型は人間離れした美貌を持つことは、竜に詳しい者なら誰もが知っている。 都全体に被害が及んだにも関わらず、正面から火竜に向かっていったマナ自身に外傷は見当たらない。すらりと伸びる四肢は色が白く、擦り傷1つ付けば目立ちそうなものだが、目視では確認できなかった。 「……何故、話さなかった」 無意識に不機嫌な声が出た。表情もムスッとしていることは、クラウン自身も自覚している。 「何故って……風竜の力を失った者が『実は風竜です』って名乗ったところで信じてもらえるとは思えませんでしたし」 「……」 「竜の雌がこの国にいると知られたら、クリニア政府は再び竜を使って襲撃しに来ると思いました。父親代わりの火竜は殺され、母親代わりの氷竜は北に連れて行かれた。兄のように慕っていた火竜は2人を助けようと向かっていったきり、行方知らずです。故郷が燃えるあの光景は2度と……見たく、ありませんでした」
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