九章/竜の子

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屋内で本来の姿に戻ろうものなら、謁見の間はおろか王城自体が崩れかねない。人型で自在に風を操れるようになるまで、市民の混乱を避けるためにも竜の姿にならないでくれと、国王自らマナに命じた。 火竜と比べても風竜は巨体だ。混戦の最中、その姿は多くの市民の目にさらされた。既に突然現れた風竜が何者なのか、市民の好奇心は政府からの発表に注目が集まっている。今回の件で竜を恐れる者も、興味を持った者も、恐ろしいばかりではないと分かった者もいるはずだ──…… しかし、ノア政府としては風竜の存在の有無は他国侵攻の抑止力になるのか、危険物を所有することになったのか判断しかねる。 「雌の存在を知った今、クリニアはどう動くと思う?」 「クリニアの政府も、クリニアの竜も、いずれは私を奪いに来るでしょう。彼等の目的は、純血竜の繁殖ですから」 「……」 「雌が必要だからこそ、強硬な手段で出てくる可能性は低くなりました。私が死を選べば、困るのはノアではなくクリニアです。それに私は風竜です。そう簡単には、捕まりません」 「しばらく向こうも様子を見てくる、か」 「……おそらくは」 肩を震わせる姿を見かねて、ハズマが軍服の上着を羽織らせた。眼差しはすっかり父親だ。12年前、突然現れた血塗れの子どもに狼狽えた姿とは、全くの別物だった。
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