九章/竜の子

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「マナ、お前は」 「……」 「風竜の力を取り戻した今、どうするつもりだ。クリニアに帰れば、竜の雌は捕らわれるのだろう?」 異なる種族の事情とは言え、男でも胸糞悪くなる話だ。クリニアが竜族を増やすために、竜族と人間の女と掛け合わせて“竜の血を引く子ども”を作っている蛮行は、近隣諸国では有名な話だ。 そこに母となる女の意志が汲まれているのかどうかは分からない。何を基準に選ばれた女達なのかも知らない。ただ“子どもを産むこと”に利用され、産まれた子どもは国の戦力として戦場に立たされる運命──……我が子にそんな運命を望む母親がいるだろうか。 ましてやマナは正真正銘の竜族だ。人間と掛け合わせるより間違いなく強健な竜が産まれる。それを脅威に思う一方で、捕らわれれば強制的な交配を強いられる虞があるマナ自身を按じた。 産まれた故郷だ。生き別れた仲間は今も捕らわれている。風竜の力を取り戻した今、海を渡ることは彼女にとって造作も無いことだが、しかし──…… 「……仲間を取り返すことが、今の私にとって最優先時効です」 「……」 「……でも、まだ力が弱い……っ……今のままじゃサザンクロスを滅ぼした黒竜に到底、敵わない……ッ……もし、許していただけるなら、しばらくはノアに留まって、もっと……もっと成長したいです! 私はまだ、風竜としては半人前だから!! 抗う力を手に入れたい!!」
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