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その日付けでマナは四季彩署の職務を外された。そもそも異国の出身の別種族だ、人間社会の社会階級には当てはまらない。よって今後は異国の客人として迎え、住まいは王城の側塔に移されることになった。
新しく用意された服は、以前、袖を通した女官服と比べても上等品だ。下は白の巻き布、上着は金糸で花の刺繍が施された袷襟。胸元を留める組紐の先には玉が付き、髪をまとめる宝飾品も今まで手に取ったこともない金細工。
用意から身支度の世話をした女官からは感嘆の吐息が漏れるが、仰々しい格好に不満しかないのはマナ自身だ。ただでさえ角の重量で重い頭が、金の宝飾品で更に重い。つげの櫛で髪を梳かされるたびにゾワリと寒気が背中を走る。
違う。こうじゃない。風竜が望む生き方は、こういうことじゃない。
「山で暮らしたい」
「は?」
「山で暮らしたい!」
「マナ様!?」
するりと衣を脱ぎ捨てて、マナは窓から王城を抜け出した。
屋内に閉じ込められることも、四六時中女官が側につくことも窮屈だ。自由が無いも同然だ。
早々に体を浮かせる感覚は蘇った。3階から飛び降りて重力に引っ張られるのは刹那、微弱な風に包まれ、ふわりと浮かぶ。あとは風の行方に身を任せるか、向かいたい方向に風を操ればいいだけだ。
赤い手綱は、今はない。地上のアルトと繋がっていた赤い手綱の感触が、ふと右手に蘇った──……
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