九章/竜の子

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通路の奥から現れた研究員の腕の中には、先月産まれたばかりの“出来損ない”が抱えられている。人間の軟弱な体に不釣り合いな指先の鉤爪。毛色から見て父親は火竜で間違いないが、増えすぎた異母兄弟の出生に今更関心も無い。 適当な人間の女に貴重な竜の種を植え付けること自体が勿体ないとさえ思うのだが、重傷の体と引き替えに得られた情報を思い出し、ゼロ・ワンは笑った。 「ゼロ・ツーは首都に向かったようだが……ノアで何があったんだ? その怪我は騎虎にやられたのか……」 「ハッ、まさか。俺が騎虎なんて下等な哺乳類にやられるかよ。想定外の事態に対応出来なかっただけだ」 「想定外?」 「風竜っつー爆風に吹っ飛ばされた」 元はサザンクロスの研究員、カイジの顔色が「風竜」の一言で強張った。ゼロ・ワンにとって愉快で仕方がない。今、彼の頭の中に思い浮かべた風竜は、12年前に生き別れた“あの雌の風竜”に違いない。 「どうした、喜べよ。サザンクロスで面倒を見てやっていた雌の竜が、俺を吹き飛ばすまで成長してたんだ、生きてて良かったじゃないか」 「マナが……ノアに?」 「へぇ? マナって言うのか、あの女」 女と呼ぶにはまだ未発達。素直で大人しく、男に従順な性格──……には見えなかったが、竜族ならばあのくらい気が強い方がいい。陰鬱な女も、人形のように感情が死んだ女の面も飽き飽きだ。
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