九章/竜の子

15/20
前へ
/503ページ
次へ
隣国に雌の竜がいると分かれば、本部の人間は安易な考えで竜族を総動員して奪いにかかるだろうが、報告に向かったのがゼロ・ツーで都合が良かった。 もし、強引な手段でノアを襲撃でもしようものなら、あの雌は躊躇うこと無く自死を選ぶだろう。 そうでなくても風竜相手では有翼種は不利であり、あの体格差は不利を通り越して卑怯だ。土竜のアラサンドラをしのぐ巨体。この先、更に成長することを考えれば、投石も弓矢も大砲も、『痒いかな』ぐらいにしか思わないだろう。 正直、上空に逃げられた時点で終わりだ。安易に動いて逃げられるようなバカな真似だけは回避したい。 「本当にマナなのか!? だってあの子は僕がこの手で……」 「白が混ざる鈍色の毛。色白の肌に紺青の瞳。まだまだ性格は幼稚だが、あと10年すりゃぁ、シヴァナに負けねぇいい女になるぞ、アレは」 「……ッ……」 「アンタからも初めての交配相手は俺にするように上へ進言してくれよ」 「ふざけるな!」 「俺はァ、本気だよ」 強い子孫を残したいと思うのは、雄の本能だ。出来損ないを繁殖するためではない、純血の竜こそ子孫と呼べる。しかし、ベナトナシュもシヴァナも繰り返す交配で生殖機能は落ちている事実。より強い子孫を残すためには、若い雌の風竜が適任だ──……
/503ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加