一章/風の行方

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ノーザンクロス竜監視区域改め、【国立竜研究所】 白波がぶつかる海岸沿いに、二棟の施設が隣接していた。しかし、それは外から見ても分からない。高い壁が施設を囲い、中の様子は外部からは覗けないように設計されている。入り口は特別な訪問者がない限り、通常は閉ざされたままだ。 白磁の建物は3階建て。研究員の居住区と研究所を兼ねている。収容している竜のデータ管理はもちろん、国内で見つかった竜骨の分布情報、筋力を増強するための投与薬研究、地下では次の交配に備えた準備が進められているが、部外者がその詳細を知る術はない。 隣り合う黒紅色の建物には実際、竜が収容されている。平屋1階建て。敷地面積は広く、中は通路を挟むように鉄格子の檻が並ぶ。収容されている竜の足には足枷、手には手枷。天井にはガスが送り込まれる給気口。それでも竜が暴れた時に備え、物騒なものは他にも収容所内部に備わっていた。 自然のものなんて何ひとつない。檻の中にいる限り、感じられるのは鉄格子の冷たさと石畳のざらつき。天井からぶら下がる電灯は、昼間でも付けっぱなしにされているがそれでも暗い。 与えられる食事は種族別の考慮など一切無く、朝夕2回。与えられるのは毎回同じドライフードだ。人間の歯では決して砕けきれない固さ。苦み以外感じられない味。不足する栄養素は、チューブから直接体内に注入された。 管理を徹底されて生きてきたノーザンクロスの竜は、何を思って生きているのだろう…… カイジが初めて北の監視区を訪れた時、保護区の竜とは全く違う目をした彼等を目の当たりにして、初めて竜を怖いと思った。
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