一章/風の行方

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白衣の代わりに支給されたのは、使用済みの作業着だった。それを肩に引っかけて向かった先は、今、1番傷ついているシヴァナのもとだ。彼女もサザンクロス襲撃の際に抗ってみせたが、相手は火竜2体、雷竜1体。氷竜との相性は悪かった。 たとえ子どもは出来なくても、レイとの仲は誰もが認めていた。卵から孵ったアルトも、末っ子のマナも、2人を親同然に慕っていたのは間違いない。若手を見守る老竜がいて、サザンクロスでは種族の垣根を越えて家族のかたちは出来ていたのだ。 それなのに──…… レイ、最期の咆哮。あれだけ感情的に叫ぶ声をカイジは聞いたことがない。 「……シヴァナ」 囚われた檻の中で、氷の壁が張り巡らされた。冷気は収容所全体に吹き込み、石畳の床に白い薄氷が浸食する。踏み込むと氷が軋む音。彼女のもろくなった心を踏みつけるような……そしてマナを足蹴にした時の罪悪感が、ザワザワと背中を迫り上がった。 「……シヴァナ、大丈夫か?」 「……」 「……シヴァナ」 「恋人を殺されて同情はするけど、周りの迷惑も考えた方がいい。寒さに弱い存在が、お姉さんの氷で凍え死んでしまうよ」 「!? ……君は……」 向かいの檻に囚われた若い男。人型をしているが、ここにいるということは竜であることに違いない。壁に背中を預けながら通路の奥を指差す。 彼の隣を覗けば、もう1人。地べたにあぐらを掻きながら、気怠げに首を横に振った。 「違う、違う、もっと奥だ」
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