一章/風の行方

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彼等が示す先を目にして、思わず口を手で覆った。 いたのは竜だ。子どもの竜だ。アルトほどの幼い火竜もいれば、凍結に弱い水竜もいる。しかし、一目で竜と分かるものに混ざって、“混血”と思われる子ども達の姿もあった。それは異形な姿と言わざるを得ない。 歪な角が生え、口が大きく裂けた人間。檻の隅で背中を丸め、骨音を鳴らす痩せこけた火竜。地べたに横たわる水竜は、衰弱して死にかけている。その体を揺するのは、頭が竜で体は人間……露出した肌には、無数の注射痕。 彼等がどうやって生まれたか、思い至る可能性に吐き気を覚えた。人間と竜の生体実験で生まれた子どもがこれならば……北は何の成果も出していないことになる。国防の戦力など、ほど遠い。ただ命を弄んだだけだ。 「シヴァナ、やめてくれ! 子ども達のために、これ以上力を使わないでくれ!」 「……」 「この子達に罪はない、同じ犠牲者だ……ッ……どうしてこんな……どうしてこんな酷い真似が……ッ……おい、誰かここを開けろ! すぐに介抱が必要だ! 鍵を、ここの鍵を開けてくれ!!」 非道な研究に手を貸すつもりは微塵も無い。強要されるくらいなら死んでもいいとさえ思った。 それがノーザンクロスの竜の実態を目の当たりにして、それではいけないと思い知る。少しでも苦痛から、恐怖から解放する術はないのか──…… 解錠を求めて走り去るカイジの背中を見送って、シヴァナは思う。彼はどこにいても変わらない。1番に弱者のことを考えて、真っ先に動ける人間だ。 カイジだけに限らずサザンクロスの人間は竜に尽くし、いたぶることは決してしなかった。だから、サザンクロスの仔竜2匹は人間に対して恐怖心を抱いたことがない。この世に怖い人間が存在することを知らずに育った。人間社会に放り出され、2人は無事に生きていくことが出来るだろうか…… 「……アルト、マナ……」 レイの背中を追う2つの小さな影。どうか、どうか何者にも虐げられず過ごせますように──…… 流れる涙はたちまち凍り、床に落ちて砕け散った。
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