一章/風の行方

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1体の竜の死によって生じた爆風は、風力を落としながらも国全土に吹き込んだ。 爆風は強風へ、強風は疾風へ、疾風は軟風に変わり、軽風になる頃には海を越えて海岸沿いの砂を撫でた。 雨雲を運んでくるほどの風量はなく、空の太陽はこれでもかというほど地に光を注ぎ、直視することも許さない。「今日は暑くなるな」と誰かが言い、「今日もだろ」と誰かが返す。 港で働く男達は、首都へ運ぶための荷物を午前中にすべて船に積み込まなければならない。機械を使ってコンテナを積み上げ、積み荷の数を数えてから日除けのシートをかぶせる。 中身は西地方の特産品、海産物と薬種が主だ。船は政府が流通のために運用する商業船。地方の仲買人が買い付けた品を都の商人達が町で売る。出航時間直前まで荷は積み込まれ、準備が出来た頃合いを見計らって軍の関係者も乗り込んだ。 西の領主から預かった品は、王族へ献上品だ。それを無事に届けることが任務だが、差し出したところで喜ぶ者は王ばかり。つまらなそうにうわべの感謝を述べる王子の姿が目に浮かんだ。 騎兵の国、ノア王国。長い歴史の中では隣国と領地を奪い合う争う過去もあったが、侵略戦争を放棄することを近隣諸国へ大々的に宣言して60年。自衛の力を保持したまま、国は他国からの侵略を防ぎ国土を守り続けている。
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