一章/風の行方

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決して豊かとは言えないが、地方でも食うに困らない生活ができ、都は人が集まり活気がある。愛国心があるからこそ自ら軍に入隊する若者も少なくはない。 【他国を侵略しない】【母国を守る】それがノア国民のプライドでもあった。 都に近い港に近付くと、普段よりも入港者が多く、そのほとんどが10代の若者だ。緊張した面持ちの者。期待に胸を膨らませ顔を上げる者。中には心配性な親族同伴で、船を下りた我が子にあれやこれやと荷物を持たせていた。港から都まではまだ距離がある。重い荷物を背負っては先が思いやられると、心中を察して軍人は思わず苦笑した。 「4年ぶりの仕官募集だ、一昨日から港も町も人が溢れてやがる」 声をかけてきたのは馴染みの水夫だ。着いたばかりの荷物を運び出す若手に指示を出すが、自分はたばこをふかして手は貸さない。 「中には優秀そうなのもいるじゃないか。数年先には俺の上司になっているかも知れない」 「ハハ、そいつぁ確かに優秀だ。こん中からどれだけ採用されるか分からんが、面接するだけ時間の無駄だという輩がいるだろうに。俺だって試験官になれるぞ、ほれ、あれはダメだ。安心して国は任せられん」 そう言って指差した先にいたのは、大量の荷物を背負った先ほどの子どもだ。ぶくぶくと膨れた体を見れば育ちの良さは窺える。 しかし、軍部への仕官は確かに難しそうだ。 「ありゃ、イモ洗いがお似合いだよ」 「機会があれば推薦しておくよ」 今回の仕官募集は4年ぶりということもあり大規模だ。軍部への入隊希望者だけではない、政治運営に関わる文官、王城勤めの女官、更に年少者を募って下男、下女の大増員だ。出生証明書と親族以外の推薦状があれば誰でも応募できるが、希望の部署に配属できるかはまた別の話。 軍人であれば面接の他に実技があり、文官志望であれば筆記試験が7科目。女官に関しては容姿も重要視されるため、教養があればいいというわけでもない。
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