一章/風の行方

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適材適所に振り分けられた新人は、よほどの才がない限り、即戦力にはならない。 全体の9割は雑用業務から始まり、日が経つにつれて必ず逃げ出す者が出てくる。配属された部隊についていけず異動を申し出る者も居れば、駆け落ちして逃げた男女もいる。 ある年には、親が恋しいあまり泣き出した年少者の動揺が伝染し、下男見習いが全滅した年もあったが、大抵の者は見習い期間を経験し、生涯をかけて己の仕事を全うする。 まだ仕官も決まってない者達にとっても、軍服を纏う人間とは既に上下関係が成立した。道を譲ることは当然ながら、黒に黄色いラインの腕章を認めて羨望の眼差しを向けてくる者も少なくはない。 それは他国の竜に対抗するための力、【騎虎】を従える証明であることをこの国の人間ならば誰もが知っている。 3ヶ月ぶりに還った故郷は、門を跨ぐ前から仕官希望者と、全国から集まる人材の中から優秀な若者を商家に取り入れようという商人の使いとで随分と混み合っていた。 ただでさえ暑い気温が更に蒸し暑く感じる。極力、他人と肌を接触したくないが、王城に近寄ればそれも避けては通れない。 「やれ、もっと時期を早めて帰るべきだったか」 「手を貸さんこともないが、当然、土産の酒は用意してあるんだろうな」 「ともに飲む酒なら用意してあるぞ、ナツメ」 「よし、手を打とう。おかえり、ハズマ」
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