一章/風の行方

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仲間が連れている騎虎は4才の赤毛。大の男でも2人ならば軽々背に乗せて走ることが出来る。【騎虎隊】のみが許された城壁の道を使えば、人混みを避けて楽々と城門を抜けることが出来た。 「助かったよ、午後の謁見に間に合いそうだ」 「なら俺は晩酌の肴でも探してくる。いつものところで落ち合おう」 「了解」 「よし、行くぞ、カム」 仕官した当初から知る友は、当時から騎虎隊希望者だったことを思い出す。相棒の騎虎は2代目だが、主によく懐き、よく従った。 通常の虎より3倍の大きさで跳躍力もある騎虎に懐かれるかどうかが、まず騎虎隊に入隊できる最低条件でもある。 騎虎は頭が良く、人を良く見る。少しでも怯えを見せれば背に跨がることなど決して許さず、愚か者が迂闊に手を触れようものなら牙をむき出す獰猛な一面を持っている。 そんな騎虎を【相棒】と呼ぶナツメに対して、ハズマの事情は少し違う。他国に存在する竜という存在を知ってから、その畏怖に太刀打ちできる力は騎虎以外にないと考えていた。人が剣を構えたところで、火を吐く竜に敵うはずがないのだ。 謁見の間に通されまず行う最敬礼は、仕官直後に習う初歩の所作だ。中央の椅子に座る人物こそ、この国の現国王カフ・アル・カディブ。御年38才の若い王だが、王としての器は先代に勝る。端正な顔が際立つ短髪に、さりげなく宝飾が散りばめられた鎧。自信も活力も、男としての魅力も有り余り、対面するたびに『選ばれた王』なのだと感じ入る。 「手間をかけたな、ハズマ。西の地方は変わりなかったか」 「先月の大雨で多少の水害は発生したようですが、犠牲者が出るなどの大事に至らず済みました。今年の秋には水路も無事完成することでしょう」
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