プロローグ

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【南十字保護観察官】 白衣の胸元に刺繍された文字を指でなぞり、その指で胸ポケットに差し込んだペンを引き抜いた。 同じ白衣を身に纏う上司から渡された書類には、冒頭から40項目に及ぶ注意事項が記載されている。それにすべて目を通し了承のサインをすれば、晴れてサザンクロス竜保護区域への立入許可が下りた。 国内で最初の竜が鉱山の中から発掘されて60年。遙か昔に絶滅したとされていた竜は、誰にも見つからず長い年月、鉱山の中で眠り続けていた。眠りから目を覚ましたのは発見から22年後、種族は土竜。竜は自身を【アラサンドラ】と名乗った。 これまでも各地で竜骨が発掘されることはあったが、生きた竜の発見は国を動かし、国全土で竜の調査・発掘が本格化。アラサンドラが見つかった鉱山をはじめ、その後も海底、地層、火山、氷山の中から竜の成体が発見される。近年では卵の孵化にも成功していた。 しかし、人ならざる力が強大であればあるほど、人々は竜の扱いに慎重になった。竜族との共存を目指すか、兵器として国防に利用するか──…… 相反する方針を掲げた南北は、互いに竜の扱いに関して干渉をしないことを条件に、国から広大な土地と竜の個体が分け与えられた。それが今から11年前のことだ。 南のサザンクロスでは国から与えられた山を拓き、【竜保護区域】を指定。一般人の立ち入りを禁じ、公には所在地も明らかにされていない。秘密厳守を約束した各分野の研究者のみが立ち入りを許可され、若き研究員、カイジもその1人だ。 立入許可書の次に渡されたバインダーには、保護区域内の全体図と竜の個体情報が記されている。名前、性別、種族、翼の有無、おおよその年齢、食事、特長、性格、注意事項……個体の情報は全5ページ。
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