一章/風の行方

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「やめぬか、ハズマ。その者はケガしているではないか!」 「しかし、王子様……」 「見たところ私より幼い。何があったか知らないが、お前のような大の男に怒鳴られたら恐縮するのは無理もない、放してやれ」 「はい……」 「う~っ」 「逃げるな、隠れるな、無駄な抵抗はやめろ」 仕方なく白い布で包み込んだ。町の女が赤ん坊に施すおひなまきだ。顔以外の自由が奪われたと分かると、紺青の目がキッと睨み付けてきたが、凄みには欠ける。 「申し訳ございません、この者が忍び込んだことに気付かず、とんでもない失態を……」 「どういう事情か分からんが、ハズマ、関わったからには最後まで面倒を見よ」 「は?」 「ケガはしているようだが、そこまで元気なら命に関わるものではないだろう。親元を探して戻すも良し。それが叶わななければ、どうせ独り身だ、子ども1人ぐらい養うことも出来よう」 「私がですか? 待って下さい、陛下。子どもを養うなど俺……いえ、私には……」 「西の領主には面白いものを見せてもらったと、礼の文を出しておく。皆の動揺した顔、傑作だったぞ」 我が主君ながら、変わった御方だと思う。退出する際、反物の処分はハズマに一任されたが、小脇に抱えた女児同様、扱いに困るものだと眉を下げた。
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