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仕方なく引き取って退出したものの、当然、養子として迎えるわけにもいかない。まずは事情を聞き、故郷さえ分かればその町に送り届けるくらいは考えてみたが、血にまみれた子どもがただの迷子とは思えない。
厩舎の水飲み場を借りて、まずは体の血を落とし、傷の具合を確認した。小さな擦り傷は全身に及ぶが、大きな傷口は側頭部と背中にそれぞれ2カ所。まだ傷は新しく、皮膚が剥げ肉が見える重傷だ。おそらくこの先も傷痕は消えないだろう。
「誰がこんなにひどいことを……痛くは、ないか?」
「……いたい」
「……そうだろうなぁ」
わざわざ西の地で入手したばかりの軟膏を見知らぬ女児に使うことになった。いたずらに弱者を虐げる者がいるが、おそらくこの子も似た類いの被害者だろう。
「親は?」
「……いない」
「故郷は?」
「……もえた」
「なら、今までどうやって暮らしてたんだ?」
「みんなと……っ……みんなしん、しんじゃった……うぇーんっ」
「……」
親元へ帰す選択肢はないということか。
乱れた髪を手櫛で整えれば、可愛げな顔をしている。白に混ざる鈍色の毛は珍しいが、紺青の瞳と合わせてみれば『こんな猫がいるな』と不思議と納得した。自我が強そうなところもどこか猫っぽい。
名前を聞けば「マナ・エモナ・モネ」と名乗ったため、簡略して「マナ」と呼ぶことにした。
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