一章/風の行方

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突然、頭をわし掴まれ、視線を上げれば干からびた梅のような老人がいた。金縁フレームの丸眼鏡、眉も無い剃髪頭。背中に背負ったカゴの中身は、根っこがついたままの野草だ。今まで会った誰よりも土の匂いが強い。 手から逃れようと抵抗したが、構わず体重を乗せてくる。 「どうしました、キヌヅカ」 「こちらにも雑用を1人融通してくれんか」 「それは構いませんが……下男では無くてよろしいのですか?」 「後進育成のための人材は足りてる。欲しいのは雑用だ。見栄えなんてどうでもいいが、なるべく聞き分けの良い娘がいい」 容姿で選ばれた者が“見栄えなんてどうでもいい”と言われて喜ぶ者はいない。少女達は泥に汚れた老人から目を逸らし、自身が選ばれないようにあらぬ方向を向いている。 そんな彼女達の心中を察する中で、老人の目にとまったのは掌中の幼女だった。掴みやすい位置に頭がある。不満をうんと表情に出して、口を『へ』の字に曲げていた。
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