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長く読み手を待ち続ける書物は、どこかもの寂しく存在感が重い。まるで重厚な命が宿っているようだ。それらに囲まれることが若干恐ろしくもあり、マナは少年の腕にしがみついた。
「動きにくい!」
「やさしくない!」
「……ッ……今は許してやるが、いつかそういう態度を改めさせてやるからな。ほら、これを見よ」
少年がマナに見せたかったものは、書物ではなく壁に埋め込まれたタイル絵だった。色彩豊かに描かれているそれが竜であることは、竜のマナには一目で分かる。
見覚えのある種族別のフォルム。翼を広げる火竜、岩山のような土竜、一際輝く氷竜……しかし、画の中には見覚えの無い竜族、見覚えの無い種族も描かれ、竜と隣り合うその種族は「騎虎」だと少年は教えてくれた。
「騎虎は今や竜に対抗する我が国の戦力であることに違いないが、はるか昔には竜とともに邪悪なものから人間社会を守った守護獣とされていたんだ」
「きこ……」
「何故、竜が1度滅びたのか未だ確かなことは解明されていないが、竜が地上から姿を消した長い期間も、騎虎は人間と生活をともにしてきた。頼もしく、ありがたい存在であることは確かだが……竜と騎虎を敵対関係にしてしまったのは人間だ。しかし、そうする以外、国を守る術が無い」
「てきたい……」
「俺にとって竜は憧れの神獣でもあるが、もし、本物を目にする機会があるとするなら……それはこの国が窮地に立たされた時であろう」
「きゅーち。きゅーちなー」
「……お前、絶対に分かってないだろう」
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